ビジネスにおいてファイル共有を安全に行うには、クラウドストレージ選びが重要です。セキュリティの高いクラウドストレージを選び、保管したファイルを適切に管理・運用することが求められます。
クラウドストレージサービスは利便性が高く、近年では多くの企業が活用していますが、使い方を誤ると情報漏えいや不正アクセスなどのセキュリティインシデントにつながります。クラウドストレージの活用によるリスクを避けるには、クラウドストレージのセキュリティ機能や運用ルールなどを把握した上で、自社に合ったサービスを選ぶことが大切です。
本記事では、主に法人のIT担当者に向けて、クラウドストレージの安全性や正しい選び方、安全性の高い活用法を解説します。安心かつ効率的なファイル共有環境の構築に役立ててください。
クラウドファイルとは?クラウドストレージなど定義を解説
ここでは、クラウドファイルやクラウドストレージなどの定義について、わかりやすく解説します。
クラウドファイルとは
クラウドファイルとは、インターネット上にあるデータ保管場所(クラウド)に保存されたデータ(ファイル)を指します。
クラウドファイルはインターネット上にデータを保管するため、インターネット環境があればどこからでもアクセス可能です。また、インターネットを介して他者とファイルを共有したり、データを複数人で同時に編集したりすることができ、利便性が高くなっています。
クラウドファイルが利用できるサービスとしては、「 Google Drive 」や「 Dropbox 」、「 iCloud 」、「 OneDrive 」などが代表的なものとして挙げられます。
クラウドストレージ(オンラインストレージ)とは
クラウドストレージは、インターネット経由で写真や動画、ファイルなどのデータを外部サーバーに保存し、どこからでもアクセスできるようにしたサービスです。オンラインストレージとも呼ばれています。
インターネット上のストレージにデータを保存できるため、端末の容量を気にせずに保存できます。
前述したように、クラウドストレージはインターネット上にデータを保存するサービスのため、インターネット環境があればどこからでもアクセスできます。共同編集も可能で、複数人が同じファイルにアクセスして同時に編集できるため、チームでの作業効率アップに役立ちます。URLによるファイル共有も可能で、特定の相手にファイルを共有することも簡単です。
また、多くのサービスがデータの自動バックアップに対応しています。データが消えてしまうなどの万が一の事態に陥っても、簡単に復元可能です。
さらにセキュリティ面でも大きなメリットがあります。多くの有料サービスでは、データ暗号化や多要素認証といったデータ保護の対策が整っているため、安全に活用しやすくなっています。
インターネット上のストレージを活用するため物理的なストレージを用意する必要がなく、初期コストや管理コストなどのコスト削減につながる可能性もあります。
ファイルサーバーとは
ファイルサーバーとは、社内ネットワークを介してファイルの保管や共有を行うシステムです。インターネット上のストレージにデータを保管するクラウドストレージとは異なり、社内に設置したサーバーやデーターセンターなどにデータを保管します。
従来はデータを社内でのみ扱うことが多かったため、多くの企業がファイルサーバーを導入していました。しかし近年、クライアントや協力企業など社外のステークホルダーともデータをやりとりする機会が増えたため、現在ではクラウドストレージが主流となっています。
また、ファイルサーバーの構築には専用ルームや物理サーバーが必要です。大容量のファイルを格納するには、高額な初期費用がかかってしまいます。このため、ファイルサーバーの設置は導入ハードルが高いというデメリットもあります。
クラウドストレージでのファイル共有(クラウドファイル)は安全か
クラウドストレージは適切に選定し、正しく運用すれば安全に活用できます。ただし、その安全性を確保するには、利用目的や組織の運用体制に合ったサービスの選定と適切な管理・運用が求められます。
クラウドストレージは本来「データの保管」が主な役割のサービスです。そのため、ファイル共有などを前提とした使い方には注意が必要です。リンクの設定や権限の付与を適切に行い、監査やログ管理を通じてアクセス履歴を確認できるようにしておくことが重要です。これらの管理が不十分であると、情報漏えいや不正利用といったリスクを招く可能性があります。
ある大学の事例として、2025年11月、大学院研究科のセンターが運用するファイル共有サーバー(NAS)がランサムウェア被害を受けました。サーバー内の約850名分の個人情報と3名分のマイナンバーが漏洩した可能性があります。幸い基幹ネットワークや附属病院には影響はなく、関係機関への報告や調査・復旧を進め、再発防止策を強化するとしています。
法人としてクラウドストレージを導入する際には、自社のセキュリティポリシーとサービス提供側の利用規約やセキュリティ対策を照らし合わせて検討することが求められます。データ保存期間や削除ポリシーが監査対応に適しているかを確認し、必要に応じて法人向けの有料プランを選択することで、セキュリティ機能や管理体制を強化することができます。
また同時に、従業員に対するITリテラシー教育を定期的に行い、セキュリティ意識を高めることも不可欠です。業務用個人アカウントを個人業務利用に流用する、あるいは逆に個人アカウントで業務を行うなど、組織のセキュリティポリシーに反する行為は監査上の問題となり、企業の信用を損なう恐れがあります。さらに、アカウント管理が杜撰であると、退職者や外部委託先が引き続きアクセスできてしまうなど、深刻なリスクにつながりかねません。
この実例としては、大手IT企業の元契約社員による不正アクセス事件が挙げられます。取引システム開発を請け負っていた顧客(大手証券会社)から約2億円を不正に引き出したとして2021年3月に逮捕されました。アクセス権限管理やログの監視体制が、この契約社員に業務が集中し属人化していたことでチェック機能が働きにくい状況にあったことも一因と考えられます。
クラウドストレージは業務効率化に大きな効果をもたらす一方で、運用方法を誤ればリスクを伴います。利便性だけに注目するのではなく、セキュリティとコンプライアンスを両立させる視点から導入・運用を進めることが、企業にとって最も重要なポイントとなります。
安全なクラウドファイル共有サービス選定のチェックポイント
安全にクラウドファイルを扱うには、サービスの選定が重要です。セキュリティ対策がしっかりしているサービスを選ぶことで、情報漏えいや不正アクセスなどのセキュリティリスクを防げます。クラウドファイル共有サービスを選ぶ際のポイントは以下のとおりです。
- データ暗号化のレベル
- 監査機能(ログ管理)の有無
- データセンターの安全性
- 日本の法規制に適合しているか
ここでは、それぞれのチェックポイントについて詳しく解説します。
データ暗号化のレベル
ファイル転送やクラウド利用においては、データ暗号化のレベルを必ず確認することが重要です。暗号化とは、元の文字列を別の形式に変換し、第三者が内容を読み取れないようにする仕組みです。
暗号化が不十分であれば、通信内容が盗み見られたり改ざんされたりする危険があり、情報漏えいにつながる可能性があります。このようなセキュリティリスクを防ぐためには、データ転送中だけでなく保管中にも暗号化が施されていることが不可欠です。
近年のクラウドサービスの中には、データを自動的に暗号化する機能を備えているものもあります。暗号化には「レベル」があり、使用する暗号化方式や暗号鍵のビット数によって決まります。
一般的に「AES 256bit」などは安全性の高い暗号化手法とされ、金融機関や政府機関など、高度なセキュリティが求められる場面でも広く利用されています。逆に暗号化レベルが低い場合は、解読されるリスクが高まり、十分な保護が期待できません。
法人利用においては、万が一情報漏えいが起こると、企業の信用やコンプライアンスを大きく損なう恐れがあります。自社のセキュリティポリシーに合致したサービスを選定することが、安全性と信頼性を確保するための第一歩となります。
監査機能(ログ管理)の有無
ファイル転送サービスを選定する際には、監査機能(ログ管理)の有無も確認が必要です。
監査機能とは「誰が」「いつ」「どのような操作」を行ったのかを記録・確認できる仕組みを指します。これが備わっていない場合、情報漏えいやデータ改ざん、不正アクセスなどのセキュリティインシデントが発生しても、原因の特定や追跡が困難になります。
監査機能が搭載されているサービスでは、ユーザーがファイルを閲覧したり編集したりした際の操作履歴が、自動的にログとして残ります。そのため、万が一情報漏えいや内部不正が起きても、原因を追及しやすく、再発防止策の検討にも役立ちます。
さらに、管理者が監査ログを確認できるだけでなく、その結果をエクスポートできるかどうかもポイントです。ログの外部出力が可能であれば、監査対応やコンプライアンス遵守の観点からも、企業の信頼性を高めることにつながります。
データセンターの安全性
データセンターの安全性も確認しましょう。クラウドストレージは、インターネットを介して外部のサーバーにデータを保管するサービスです。データが保管されるデータセンターのセキュリティが整っていなければ、不正アクセスなどのリスクが高くなります。情報セキュリティに関する国際規格である「 ISO 27001 」や情報セキュリティに関する内部統制の信頼性を評価する「 SOC 2 」などに対応しているかチェックしておくと安心です。
また、クラウドストレージの稼働率も確認しておくとよいでしょう。稼働率はクラウドストレージサービスの信頼性を評価する指標でもあります。稼働率は障害によるシステム停止時間がどの程度なのかを測る指標で、稼働率が高ければ高いほどダウンタイムは短くなります。
日本の法規制に適合しているか
クラウドストレージサービスを利用する際には、日本の法規制に適合しているかも重要です。コンプライアンスとデータガバナンスへの対応状況を確認しましょう。
機密性の高いデータを扱う場合には、個人情報保護法や GDPR( EU 一般データ保護規則)などの国際的な法令や規則に準拠する必要があります。これらの法令や規則を守るには、以下のような対策を取ることが求められます。
- データの所在管理
- データへのアクセス権や削除権などの権利対応
- データ処理の記録
- 影響評価の実施
このような要件を達成するには、データガバナンス戦略を構築して定期的に見直すことが重要です。データの保護や管理の手順とポリシーなどを構築して運用した上で、定期的に見直し・改善を行いましょう。
データガバナンスの実現を目指すために、適切なサービスやツールの活用も必要です。機密性の高いデータの取り扱いに対応してサービスを選ぶことで、セキュリティレベルの高い管理と組織のコンプライアンス強化につながります。
クラウドファイル利用で徹底すべきセキュリティ対策
クラウドファイルを利用する際には、サービス側のセキュリティ対策だけでなく、利用者側のセキュリティ対策も重要です。ここでは、ユーザー側で取れる具体的なセキュリティ対策について解説します。
多要素認証の導入
多要素認証とは、インターネット上のシステムやサービスなどにログインする際に、2つ以上の認証方法を用いる認証システムです。
認証を行う際に使われる要素は以下の3つに分けられ、認証の三要素と呼ばれています。
- 知識情報:IDやパスワード、暗証番号など
- 所持(所有)情報:ICチップ搭載カードやスマホでのSMS認証など
- 生体情報:顔認証や指紋認証など
クラウドサービスの安全性を高めるために、ログイン時の認証強化が大切です。IDやパスワードを用いた認証だけでは不正アクセスやアカウントの乗っ取り、パスワード漏洩による情報流出、さらにはフィッシング攻撃による認証情報の詐取といったリスクがあるため、複数の認証方法を組み合わせる多要素認証を導入しましょう。
アクセス権限は「最小限の原則」で設定する
アクセス制御とは、「誰が、どのファイルに、どのような条件で」アクセスできるかを設定して管理することです。
アクセス権限は基本的に、「最小限の原則」での設定が求められます。最低減の原則とは、自分の業務に必要とされる権限だけを付与され、不必要な権限を持たないことです。ユーザーごとに適切な権限を設定することで、不必要なアクセスやダウンロードなどを防げるため、データの保護に役立ちます。
たとえば、重要度の高い機密情報には役員や幹部のみがアクセスできるというように、アクセスできる範囲を設定します。不要な権限を制限することで、情報漏えいや不正アクセスのリスクを下げることにつながります。
期限設定とパスワード保護の徹底
クラウド上で共有するファイルやリンクには、有効期限を設定することも重要です。期限を過ぎれば自動的にアクセスできなくなるため、第三者による不正利用や情報の拡散を防ぐことができます。ダウンロード可能な期間を限定したり、リンクを一度きりの利用に制限することで、情報漏えいのリスクを大幅に減らせます。
さらに、パスワードポリシーの設定も行いましょう。パスワードポリシーとは、パスワードの条件やパスワード設定のルールのことです。システムやサービスなどにアクセスする際に作成するパスワードの強度や有効期限、複雑さなどに関するルールを規定して、セキュリティインシデントが起こるリスクを低減させるための取り組みです。
たとえば、パスワードの文字数を16文字以上にする、パスワードには大文字と小文字、数字と記号を1文字ずつ含める、パスワードの使い回しをしないなどのように、ルールを設定します。
これらにより、不正アクセスや内部不正などのセキュリティリスクを防ぎやすくなります。
端末側のセキュリティ強化
PC やタブレットなど、利用する端末側のセキュリティ強化も重要です。端末のセキュリティを強化するには、 OS やソフトウェアを常に最新の状態に保つようにしましょう。 OS などのアップデートは機能改善の他に、脆弱性の修正という役割もあります。古い状態だと脆弱性をつかれて不正アクセスなどの被害に遭いやすくなるため注意しましょう。
また、強力なウイルス対策ソフトの導入も対策の1つです。ウイルス対策ソフトを入れておくことで、マルウェアなどの検知や不正アクセスの防止などにつながります。
定期的なデータバックアップとバージョン管理の確認、設定全般の見直し
クラウドサービスは頻繁にアップデートが行われるため、その都度新しいバージョンに更新しましょう。その際、設定内容を定期的に見直す必要があります。
新機能やサービスが追加されたのにデフォルト設定のままで利用すると、データが誤って外部に公開されるなどのリスクが生じる可能性があります。このようなリスクを回避するためにも、定期的な設定の見直しは欠かせません。
アップデートや設定の見直しなどを確実に行うために、対応可能なIT部門や専門のスタッフが必要です。自社での管理が難しい場合は、外部ベンダーに依頼してもよいでしょう。
監査ログの取得と確認
監査ログの取得と確認は定期的に行いましょう。セキュリティインシデントが起こった際には、調査が欠かせません。「誰が、いつ、どのような操作を行ったのか」を確認して調査することで、セキュリティインシデントの原因究明につながります。調査には監査ログが必要となるため、定期的に取得しましょう。
クラウドサービスによって、ログの保持期間や保存される情報はさまざまです。確認すべきログとしては、ログイン情報などの認証ログ、ゲストユーザーなどの招待に関するログ、ファイルの共有や共有リンクの発行などの外部共有関連のログなどが挙げられます。
また、監査ログを定期的に確認していることを社員に共有しておくことで、内部不正の抑止にもつながるでしょう。
ISMAP認定の安心と利便性を両立する「DenshoBako」
AvaPoint が提供する「 DenshoBako 」は、日本政府運営のクラウドサービスのセキュリティ認定制度である「 ISMAP (イスマップ)」に登録されたファイル共有ツールです。共有するリンクによってパスワード設定や有効期限、ダウンロードの可否などを設定できます。また、ログが期間無制限で保持できるため、監査ログの定期的な確認もしやすくなっています。
容量・回数無制限で送信できるため、日常的に動画などの大きなファイル送受信を行う場合にも便利です。Microsoft 365 との連携も可能なため、 Teams や OneDrive などからも簡単に送信でき、利便性が高くなっています。
クラウドファイル共有は「安全性×運用ルール」で選ぼう
クラウドファイル共有サービスは利便性の高いサービスですが、使い方を誤るとセキュリティインシデントが発生する恐れがあります。安全なクラウドファイル共有サービスを選ぶには、データ暗号化のレベルや監査機能の有無、データセンターの安全性などを比較することが大切です。
また、クラウドファイル共有サービスを利用する際には、多要素認証やアクセス制御、監査ログの確認など、自社で運用ルールを設定しましょう。
セキュリティレベルの高いサービスを選び、自社の運用ルールを徹底することで、セキュリティインシデントの防止につながります。