法人が安全にファイルを送受信するためには、セキュリティ対策が施されたファイル転送サービスの選定が不可欠です。メール添付や USB などの従来の送信手段に加え、近年は利便性の高いファイル転送サービスを利用する企業が増えています。
ファイル転送サービスは無料で利用できるものもありますが、暗号化不足やログ管理の欠如など、情報漏えいや誤送信のリスクが潜んでいます。こうした脆弱な環境を放置すれば、機密情報の流出や重大なコンプライアンス違反につながり、企業の信用を一瞬で失う危険性があるのです。
本記事では、無料サービスの危険性と法人利用に適した安全な代替手段、さらに PPAP 代替や誤送信防止策など、企業が押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。
「ファイル転送サービス」とは
ファイル転送サービスとは、インターネットを通じてファイルを安全かつ効率的に送受信する仕組みです。複雑な操作を必要とせず、簡単にファイルを共有できるため、テレワークや海外拠点との取引など、場所や距離を問わない業務環境にも適しています。
従来、企業ではメール添付やUSBなどの物理的な受け渡しが一般的でした。しかし、大容量データや機密ファイルのやり取りには不向きであり、容量制限やセキュリティ面での課題が顕在化していました。特に「PPAP」と呼ばれる、メール添付とパスワード別送による方法は、セキュリティ上の脆弱性が指摘され信頼性の低下につながる懸念があります。
ファイル転送サービスはこれらの課題を解消し、業務を円滑に進めるための有力な選択肢として注目され、幅広い企業で導入が進んでいます。
重要なのは、サービスの仕組みや潜在的なリスクを理解したうえで、自社の業務に適した信頼性の高いサービスを選定することです。これにより、業務効率化と情報の安全性を同時に強化することが可能になります。
ファイル転送サービスの仕組み
ファイル転送サービスは、インターネットを通じてデータを安全に送受信できる仕組みです。
データを送信するには、まず専用の画面やアプリからファイルをインターネット上にアップロードします。発行されたリンクを相手に伝えるだけで、リンクから簡単にファイルをダウンロードして受け取れるようになっています。
さらに、サービスやプランによっては、データの暗号化やパスワード設定、ダウンロード期限の指定など、セキュリティを強化する機能の選択も可能です。情報漏えいや誤送信などのリスクを抑えて安心して利用できます。
法人利用における「ファイル転送サービス」の現状と課題
現在、多くの企業では業務効率化が重視され、クラウド活用による情報のテータ化やテレワークの定着、アウトソーシングの導入が広がっています。
前述のとおり、これまで大容量ファイルや機密情報の共有に使われてきた USBなどの記録媒体による物理的な受け渡しやメール添付はセキュリティリスクが高く、政府や企業において廃止が進んでいます。
その代替として普及しているのが、暗号化通信や認証機能を備えたファイル転送サービスです。
とはいえ、導入や運用には依然として課題が残されています。
- サービスやプランによるセキュリティ差
選択するサービス次第では、情報漏えいなどのリスクが依然として大きな問題となり得ます。
- ヒューマンエラーへの対応不足
誤送信などの人為的ミスを防ぐためには、導入後の運用ルールの徹底や、従業員への継続的な教育体制の構築が不可欠です。
ファイル転送サービスは業務効率化の有力な手段である一方で、セキュリティ確保と運用体制の整備を両立させることが法人利用の大きな課題となっています。
無料版ファイル転送サービスのメリット
ファイル転送サービスは、大容量ファイルをオンラインで簡単に送信できます。無料版はこの便利な機能を、コストをかけずに享受できるのが最大のメリットと言えるでしょう。
これまでメール添付や USB などの物理メディアでデータをやり取りしていた企業では、代替手段として初期費用や運用コストを抑えて利用できることは魅力です。ただし、法人が利用するにはリスクやデメリットも多いため、利用前に十分な検討が必要です。
無料版ファイル転送サービスのデメリットとリスク
無料版ファイル転送サービスは手軽に利用できますが、機能制限やセキュリティ対策の不足などにより業務に支障が出る可能性があります。
法人で利用することは基本的におすすめできません。利用する場合には、無料サービスのデメリットと潜在的な危険性を把握しておきましょう。
セキュリティリスクがある
無料版のファイル転送サービスはセキュリティ機能が十分に備わっていない場合が多く、法人利用には大きなリスクを伴います。
- 暗号化の不十分さ
無料版では利用できる機能に制限があり、データ暗号化が不完全なケースもあります。その場合、送信中のデータが第三者に傍受される危険性があります。
- アクセス制御やログ管理の欠如
無料版ではアクセス制御やログ管理機能が利用できないことが多く、誰がファイルを閲覧・ダウンロードしたかを追跡できません。情報漏えいや不正利用の原因となるおそれがあります。
- 誤送信時の対応不足
有料サービスに比べ、無料版ではセキュリティレベルが担保されていない可能性が高く、誤送信が発生した場合にファイル削除やダウンロード制限ができないケースもあります。これにより、企業の信頼やコンプライアンスを損なう深刻なリスクが生じます。
法人利用においては、こうしたセキュリティリスクを十分に認識し、有料版サービスの導入やセキュリティ機能が充実したサービスの選定を検討することが不可欠です。
監査・コンプライアンス上の課題がある
無料で利用できるファイル転送サービスでは、アクセスログが残らない、あるいはログ管理機能が無料範囲では利用できないケースが多く見られます。
法人がサービスを利用する際には、監査対応やコンプライアンス遵守が不可欠です。しかしログが残らない、または管理機能が不十分な場合、情報漏えいなどの問題が発生しても原因究明が困難となり、取引先や顧客からの信頼を失うリスクが高まります。
さらに、無料サービスではデータの保管や削除に関する管理体制が不透明な場合もあり、企業側がデータの扱いを十分に把握できません。その結果、個人情報保護法や GDPR などの法令違反につながる可能性も否定できません。
コスト面のメリットを優先するあまり、監査性やコンプライアンスを軽視すると、企業に深刻なリスクをもたらす点には十分な注意が必要です。法人利用においては、ログ管理機能やデータガバナンスが明確に担保されたサービスを選定することが不可欠です。
誤送信によるデータ流出の懸念がある
ファイル転送サービスは、簡単な手順で送信できる手軽さが魅力です。しかし、その利便性の裏には「人為的なミスによる誤送信」というリスクが潜んでいます。宛先の入力間違いやリンクの誤共有は機密情報の流出につながり、企業に深刻な損害をもたらす可能性があります。
特に無料版サービスでは、誤送信防止機能や送信前確認の仕組みが十分に備わっていないケースが多く、リスクを軽減することは難しいのが現状です。
誤送信対策としては、一般的には以下の取り組みが効果的です。
- 送信前の確認プロセスを徹底する
- 承認フローの導入により複数人でチェックする
- 利用ルールの明確化で組織全体の意識を統一する
しかしどれだけ体制を整えても、ヒューマンエラーは起こる可能性があります。そのため、業務効率を高め利便性を高めるとともに誤送信リスクを最小化するためには、無料サービスではなく、信頼性の高いセキュリティ機能をもつ有料サービスを選定することが重要になります。
なお、こうした問題は無料版に限られたものではありません。どのサービスを利用していても誤送信などの人為的なミスは起こり得るため、利用者自身の(法人の場合は従業員含む利用者全体の)情報リテラシー向上と教育体制の整備が長期的には不可欠です。
容量制限と送信回数の制約に注意
無料版のファイル転送サービスは手軽に利用できる一方で、送信できるデータ量や回数に制限がある点に注意が必要です。
- ファイルサイズの制限
無料版では、1 回あたりに送信できるファイルサイズが有料版よりも小さく設定されていることが多く、数 GB 以上の大容量データを頻繁に扱う場合には不便さを感じるでしょう。
- 送信回数、送信ファイル数の制限
容量だけでなく、1 日に送信できる回数やファイル数にも上限が設けられているケースが多く、頻繁なやり取りが必要な業務では支障となる可能性があります。
こうした制約を軽視して無料版を選んだ結果、クライアントや取引先との円滑なコミュニケーションを妨げ、実務上の制約に直面するケースは少なくありません。
法人が安定した業務運用を求めるのであれば、利用するサービスの送信容量や回数の制限を事前に確認し、必要に応じて有料版への切り替えを検討することが重要です。
広告表示がある
無料版のファイル転送サービスは、利用料を無料にする代わりに広告収入で運営されているケースが一般的です。そのため、送信やダウンロードのたびに画面に広告が表示され、作業効率の低下を招く可能性があります。
また、広告によって誤クリックや不要なリンクへの誘導が起こるリスクもあり、情報漏えいにつながることも懸念されます。
とくにクライアントや取引先とのやり取りにおいては、画面に広告が表示されることで「セキュリティや品質に不安がある企業だ」と受け取られる可能性が高く、自社の信用を損なう要因となり得ます。
法人利用では、こうした広告表示の影響を十分に考慮し、
- 広告非表示のサービスを選定する
- 有料版を利用して広告を排除する
といった対応を検討することが重要です。
データの長期保管や蓄積には適さない
無料版ファイル転送サービスは一時的なデータ共有には便利ですが、長期的な保存や蓄積には向いていません。
多くのサービスでは共有 URL に有効期限が設定されており、期限切れになるとファイルはダウンロードできなくなります。アップロードしたデータ自体も、数時間から数日で自動的に削除されるケースが一般的です。
企業においては、監査対応のために、業務で継続的に参照する資料の証跡を残す必要があります。法人利用に適したデータの保管期間や管理体制が整備されているかを確認し、必要に応じてクラウドストレージや有料版サービスなど、長期保存に対応した仕組みを選定することが重要です。
企業向け有料ファイル転送サービスを選ぶポイント
企業がファイル転送サービスを選ぶ際には、コストや利便性だけでなくセキュリティと運用面の信頼性を重視する必要があります。
万が一、情報漏えいや不正アクセスが発生すれば、企業の信用やブランド価値は大きく損なわれ、取引先や顧客との関係にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
ここでは、企業向け有料ファイル転送サービスを選ぶ際に押さえるべきポイントを整理し、セキュリティ強化と業務効率化を両立するための判断基準をわかりやすく解説します。
セキュリティ対策に信頼がおけるファイル転送サービスを選ぶ
ファイル転送サービスを導入する際、最も重視すべきはセキュリティ対策です。暗号化やアクセス制御、ログ管理などの機能が備わった信頼性の高いサービスを選ぶことで、情報漏えいや不正アクセスのリスクを大幅に低減できます。
無料版ではこうした要件を満たすことは難しく、有料版サービスの利用が必要です。コストはかかりますが、顧客の安心感を高めることが自社への評価を高めることにつながるため、必要な投資とも言えるでしょう。
また、安全な環境でファイルをやり取りできることは、取引先に大きな信頼を与えることができるので、結果として取引の継続や新規ビジネスの獲得にも寄与します。
セキュリティ対策を重視したサービスの選択は、企業の長期的な成長に不可欠です。
データセンターが信頼性の高い国に設置されているものを選ぶ
ファイル転送サービスによっては、海外の複数拠点に設置されたデータセンターを利用している場合があります。
ファイル転送では、このデータセンターに送受信するデータが一時的に保存されます。海外のデータセンターを介したやり取りは、通信速度や安定性に問題が生じる場合があります。大容量データの送信やリアルタイム処理が必要な業務では、通信が不安定になることで作業効率が低下し、業務に制約を与えるかもしれません。
万が一障害やトラブルが発生した場合に問い合わせの手間や時間がかかることがあり、場合によっては連絡がつかなくなるケースも懸念されます。
また、海外のデータセンターは現地の法律に基づいて管理されているため、政府機関からデータ提供を求められることがあります。さらに、その国で法改正が行われた場合は、手続きなどでコストやリソースが必要になるデメリットも見逃せません。
ファイル転送サービスを安心して利用するためには、信頼性の高い国のデータセンターを利用するサービスを選ぶことで、通信の安定性、迅速なサポート、法令遵守の明確性を確保できるでしょう。
データ転送量が必要十分なサービスやプランを選ぶ
ファイル転送サービスは、提供される容量や条件に大きな違いがあります。部署や業務内容によっては大容量データを頻繁に扱うこともあるため、日常的にやり取りするファイルサイズを把握し、問題なく送信できるかを事前に確認することが重要です。
- 容量の違いに注意
サービスによっては転送容量が無制限のプランもありますが、すべてが同じ条件ではありません。全体の容量が大きくても、1 ファイルあたりのアップロードサイズに制限が設けられている場合もあります。導入前に確認を行いましょう。
- 業務に合わせた選定が不可欠
単に容量の大きさだけで選ぶのではなく、自社の業務で必要となるデータサイズや送信頻度を踏まえ、支障なくやり取りできるかを重視することが求められます。
自社に合った容量を確保することで、クライアントとのやり取りがスムーズになり、業務効率の向上にもつながります。
コスト効率やサポート体制が自社に合ったものを選ぶ
ファイル転送サービスの料金体系は各社異なります。利用する人数( ID 数)または、 1 か月に使用する容量で料金を設定しているサービスが一般的です。
ただし、ユーザー数に応じて利用料が設定されるプランは、利用者が多い企業ほどコストが割高になる傾向があります。総データ容量に対して課金されるプランを選ぶほうが、コストを抑えられる場合があるので、自社の利用環境にあわせて選びましょう。
また、ファイル転送サービスを選定する際は、料金体系に加えてサポート体制も慎重に確認することが重要です。
IP アドレス制限や暗号化通信、ウイルスチェックなど、セキュリティ機能が充実しているかも必ず確認しましょう。万が一セキュリティトラブルが発生した場合、迅速な対応や十分な補償があるサービスを選ぶことで、企業のリスクを最小限に抑えられます。
安全性と機能性を両立したファイル転送サービス「 DenshoBako 」
AvePoint のファイル共有ツール「 DenshoBako 」は、日本企業向けに設計されたファイル転送サービスです。 ISMAP サービスリストに登録され、エンタープライズ水準のセキュリティを実現しています。また、暗号化通信、アクセス制御、ログ管理などの高度な機能を標準搭載し、情報漏えいリスクを徹底的に低減することができます。
さらに、「 DenshoBako 」は Microsoft 365 と連携してメールや Teams から直接ファイルを送信できるため、業務効率を大幅に向上させます。
セキュリティと利便性を両立した「 DenshoBako 」は、企業の信頼性を高め、長期的な成長を支える理想的な選択肢です。
ファイル転送のセキュリティは「仕組み」と「運用」で守る
ファイル転送サービスは、大容量データを安全に送付できるため欠かせないサービスです。無料版はコスト面で魅力的ですが、セキュリティ面や送信できる容量など法人が利用するには見逃せないリスク・デメリットがあります。法人が社内のデータを安全に送受信するには、暗号化やログ管理などの仕組みを備えた信頼性の高い有料のファイル転送サービスを選ぶことが大切です。
また、ファイル転送サービスを安全に活用するには、社内のセキュリティポリシーと運用ルールの整備も鍵となります。サービスの導入後は、従業員の IT リテラシー向上を目的とした教育体制を構築し、ヒューマンエラーを減らす取り組みも必要です。これらを継続することで企業の信頼性を守り、長期的な成長につなげることができるでしょう。