
情報セキュリティマネジメントの重要性が高まるなか、 ISMS 認証の取得を検討する企業が増えています。本記事では、 ISMS 認証取得企業の特徴や取得のメリット、取引先が取得しているか調べる方法、取得にかかる費用などを解説します。
ISMS 認証が自社に必要かどうかを判断する際の参考にしてください。
ISMS 認証とは?
ISMS ( Information Security Management System )認証とは、組織が情報セキュリティを体系的かつ継続的に管理・改善するための仕組みを構築していることを認証する制度です。 ISMS 認証は、国際標準規格の ISO / IEC 27001 に基づいて運用されています。
認証を取得するには、まず情報資産の洗い出しとリスク評価を行い、それに基づいて適切な管理策を導入し、運用・監視・改善のサイクルを継続的に回すことが必要です。
近年は標的型攻撃やランサムウェアなど、多様なサイバー脅威が増加しています。情報資産や組織の信用を守るために、各企業にはサイバー脅威に対する効果的なリスクマネジメントが不可欠です。
企業は、 ISMS 認証を取得することによって外部からの信頼性を高め、顧客や取引先との信頼関係を構築することが可能です。
ただし、 ISMS 認証は一度取得すればよいだけの認証ではなく、定期的な内部監査や外部審査を通じて、継続的な改善が求められます。認証取得を継続することで、長期的に情報セキュリティのレベルを維持・向上させることにつながるでしょう。
ISMS 認証を取得している企業の特徴とは?
近年、情報技術分野を中心に多様な業種で ISMS 認証の取得が増え、中小企業でも ISMS 認証を取得する傾向が強まっています。
すでに ISMS 認証を取得している企業には、業種や体制などにいくつかの特徴があります。ここでは、どんな企業が ISMS を取得しているのか、 ISMS を取得していることの意味や期待できる体制・文化について解説します。
情報セキュリティ対策が社内で制度化されている
ISMS 認証を取得している企業の多くで「情報セキュリティ対策が社内で制度化されている」のが特徴の1つです。これは、セキュリティ対策が特定の担当者の経験や判断に依存する属人的な対応ではなく、企業全体で統一されたルールや仕組みとして運用されていることを意味します。
具体的には、情報の取り扱いに関する方針やアクセス管理、外部への情報持ち出し制限など、社内規程や運用ルールが整備され明文化されていることが挙げられます。
これらのルールを全社員の行動指針として共有し、日常業務の中で遵守することで、組織全体のセキュリティレベルの維持が可能です。
従業員教育やマネジメント体制に特徴あり
ISMS 認証を取得している企業では、従業員教育やマネジメント体制においても特徴的な取り組みが見られます。特に情報セキュリティに関しては、定期的な教育・研修が制度化されており、新入社員だけでなく既存社員に対しても継続的に実施されています。
その結果、従業員それぞれが情報セキュリティの重要性を理解し、日常業務において適切な行動を取る意識が定着する効果を期待できるでしょう。
また、教育によって最新の脅威や対策についての知識を共有することで、人的ミスや内部不正などのリスク防止につなげられる効果もあります。
業種・業態別に見た傾向(例:IT企業・BPO・医療系など)
ISMS 認証を取得している企業には、業種・業態ごとに異なる背景や目的があります。以下に代表的な業種別の傾向をまとめました。
IT ・情報通信分野
クラウドサービスの提供やシステム開発など、顧客の機密情報を扱う機会が多く、高度なセキュリティ対策が求められる業種です。信頼性の証として顧客からの要求事項となることも多く、 ISMS 認証の取得率が高い傾向にあります。
BPO (業務委託)
顧客企業の個人情報や業務データを日常的に取り扱うため、情報漏洩リスクへの対策が不可欠です。 ISMS 認証は、情報管理体制の信頼性を示す手段として重視されています。
医療・介護業界
電子カルテや診療情報など、センシティブな個人健康情報を扱う業界です。法令遵守と患者情報の保護を目的に、 ISMS 取得が進んでいます。
金融・保険業
顧客資産や信用情報を扱うため、リスク管理と法規制対応が極めて重要です。顧客の信頼を維持するために、 ISMS 取得はほぼ必須といえます。
教育・研究機関
知的財産や研究成果の保護が重要です。外部資金提供者や共同研究先からの信頼確保のため、 ISMS 取得が増加しています。
製造業
設計図や製造ノウハウなどの技術情報の漏洩防止のために、 ISMS 認証が進んでいます。海外の取引先に対してセキュリティ基準を満たすことを証明するために ISMS 認証を活用することも可能です。
企業規模
ISMS 認証は、さまざまな規模の企業で取得が広がっています。
統計によると、 ISMS 認証取得企業の半数以上は従業員数 100 人超の企業が占めています。組織規模の大きな企業では、多くの関係者が関わる中で、情報管理体制を効率的に整備する必要性が高く、 ISMS の導入が進みやすいと言えるでしょう。
しかし、情報セキュリティマネジメントの重要性が認識が強まる近年では、大きな企業だけでなく、数名から数十名規模の中小企業での取得も着実に増加している傾向があります。
ISMS 認証は組織の規模や業務内容に応じてセキュリティ対策のレベルを調整可能であり、 10 名以下の小規模企業でも、自社の状況に適した管理体制を構築し、認証を取得することが可能です。
ISMS 認証を企業が目指す理由
情報セキュリティへの関心が高まる近年では、顧客や取引先は自社の情報資産を委ねる企業選びに慎重になっています。 ISMS 認証取得の有無は、適切な情報セキュリティマネジメント体制が整っている企業なのかを判断する材料として活用されています。
たとえば、行政機関や企業がシステム開発・運用の委託先を選定する際は、 ISMS 認証取得企業を優先する傾向が強まっていると言えるでしょう。中でも行政関連の入札では、この認証取得が要件となるケースが増加しています。
このように、多くの企業が ISMS 認証取得を目指す主な理由をまとめると以下の通りです。
(1)外部要請への対応のため
- 取引先からのセキュリティ対策要求
- 公共事業や行政機関の入札条件としての認証取得
- 海外取引先との契約における信頼性の証明
(2)社内体制の強化のため
- 情報資産の洗い出しとリスク評価による管理レベルの向上
- 社員教育や運用ルールの整備によるセキュリティ意識の定着
- インシデント対応力の強化と継続的な改善体制の構築
(3)対外的信頼の確保のため
- 顧客・取引先からの信頼獲得
- 競合との差別化とブランド価値の向上
- 情報漏洩などのリスクに対する備えの証明
将来的には、 ISMS 認証は特定業種に限らずあらゆる業界で求められる可能性があります。情報を扱うすべての組織にとって、 ISMS は「信頼される企業」の基準となるでしょう。
ISMS 認証を取得するメリット
ISMS 認証の取得は、単なる形式的な手続きではなく、企業が情報セキュリティ対策を強化する中で経営戦略の一環として注目されています。ここでは、 ISMS 認証を取得することで得られる主なメリットについて詳しくご紹介します。
企業の信頼性とブランド価値の向上
「企業の信頼性とブランド価値の向上」は、ISMS 認証を取得するメリットの1つです。
ISMS 認証を取得することで、企業の情報セキュリティへの取り組みが第三者機関により証明されます。また、ISMS取得により法令遵守の体制が整うことで、コンプライアンス違反のリスクを未然に防ぐことができ、企業の信頼性をさらに向上させることも可能です。とくに、個人情報や機密情報を扱う業界では、 ISMS 認証の有無が取引の決め手となることも多いため、信頼性の向上は大きなメリットと言えるでしょう。
また、顧客や取引先からの評価が上がれば企業ブランドの価値も強化されます。特に情報管理が重視される業界では、企業の社会的信用や市場での優位性を築く重要な要素となっているのです。
競合との差別化や新規顧客の獲得につなげられる
ISMS 認証取得により企業のブランド価値が高まると、競合との差別化を目指せます。また、企業の信頼性が高まることで、新規顧客の獲得や既存顧客との関係強化が可能です。
企業の価値が高まれば、セキュリティ意識の高い優秀な人材を獲得できる機会も増え、企業のセキュリティ体制はさらに強化されるという循環も生まれるでしょう。
近年、グローバルなビジネス環境では、取引先がセキュリティ基準への適合を重視する傾向が強まっています。国際規格に基づいて運用されている ISMS 認証を取得していることで、国内だけでなく海外企業との取引においても信頼の獲得に役立ちます。
情報セキュリティリスクを低減できる
ISMS 認証の取得により、企業の情報セキュリティリスクの低減も期待できるメリットです。
情報漏洩や不正アクセスなどのインシデント発生は、企業の損失や信用低下につながるおそれがあります。
ISMS を取得する過程では、企業の情報資産の洗い出しとリスク評価を行う必要があります。適切な管理策を導入することで、企業の情報資産をセキュリティリスクから守る備えが体系的に整えられるでしょう。
また、認証取得の過程では社員向けの教育やルール整備を行う必要もあります。これにより、社員全体の日常業務における注意力が向上し、セキュリティへの意識が高まるきっかけにもなります。
情報資産と業務プロセスが可視化され効率化につながる
認証取得の過程では、 IT 資産や業務フローの整理が必要です。整理や管理を進めることで、これまで見過ごされていたムダなコストや非効率な業務プロセスは可視化され、業務の効率化が図れます。
たとえば、不要なシステムや重複した作業、管理が不十分なデバイスなどが洗い出され、改善の対象を見つけ出すことが可能です。これにより、情報システムの一元管理が可能となり、運用負荷の軽減やコスト削減にもつながります。
ISMS は単なるセキュリティ対策にとどまらず、業務改善のきっかけにもなるのです。
事業継続性(BCP)が強化される
ISMS では、情報セキュリティだけでなく、インシデントや災害などの非常時に備えた体制づくりが求められます。
たとえば、サーバーダウンやサイバー攻撃や大規模災害などが発生した場合でも、重要業務を止めずに継続できるよう、代替手段や復旧手順を事前に整備しておくことが推奨されます。これにより、被害の最小化と迅速な復旧が可能となり、顧客や取引先からの信頼の維持が可能です。
ISMS は、平時の管理だけでなく、非常時の対応力を高める仕組みとしても有効です。
ISMS 認証取得企業を調べる方法
ISMS 認証取得企業を調べる方法について解説します。企業サイトや受け取った名刺を確認すると、 ISMS 認証取得状況が分かる場合があります。また、 ISMS 認証取得組織検索でも取得状況を確認可能です。
1.企業サイトや名刺を確認する
ISMS 認証を取得している企業は、取得状況を、企業サイトや名刺などを通じて、顧客や取引先に対してアピールする傾向があります。
企業サイトを確認すると、トップページに認証機関のロゴマークが掲載されていることがあります。会社概要ページの認証資格欄や、情報セキュリティポリシーページについても、 ISMS 認証取得についての記載がないか確認してみましょう。
企業の名刺にも、 ISMS 認証機関のロゴマークが印刷されている可能性が高いでしょう。名刺に認証機関のロゴマークがあると、企業の情報セキュリティマネジメントへの取り組みを示せるため、取引や商談の際に相手に信頼感を与えられます。
2.ISMS 認証取得組織検索を利用する
ISMS 認証取得組織検索は、企業や組織の ISMS 認証取得状況を確認できるサービスです。
キーワードに、企業名や組織名、またはその他の条件(業種、所在地など)を入力して検索しましょう。企業名や組織名については部分一致検索も利用でき、完全な名称が不明な場合は一部のキーワードでの検索も可能です。
ISMS 認証取得組織検索は定期的に更新されますが、更新のタイミングによっては、最新の認証状況が反映されていない場合もあるため注意が必要です。
ISMS 認証を取得している企業数
2025 年 7 月現在、 ISMS 認証を取得している企業数は以下のとおりでした。
- 登録ベースで 8,164 社
- 公表ベースで 7,864 社
2002 年の ISMS 制度創設時の 144 社と比較すると、認証取得企業は著しく増加していることが分かります。
近年、 ISMS 認証登録数は増加傾向です。企業の登録が増加した背景には、不正アクセスやランサムウェア攻撃の増加、内部不正や委託先による情報漏洩など、多様な脅威に対するリスクマネジメントの必要性が高まったことがあります。
現在は特に IT 業界やクラウドサービスを提供する企業を中心に導入が進んでいる傾向があります。けれども、情報セキュリティマネジメントの必要性は高まる一方であり、今後は幅広い企業で ISMS 取得が進むでしょう。
ISMS 認証の取得にかかる費用
ISMS 認証の新規取得に必要な費用は主に以下の3つです。
- 審査費用
- コンサルティング費用
- 維持・更新費用
審査費用の費用は、認証機関や企業の規模、業務の複雑さによって異なります。目安として、 50 万~ 130 万円程度が相場です。
コンサルティング費用は、サービスの範囲によって大きく異なります。取得に向けたアドバイスのみならば、年間約 30 万円前後が相場です。一方、運用面もサポートしてもらう場合は、年間 40 万~ 150 万円程度は見ておいた方がよいでしょう。なお、社内のリソースと専門知識によっては、必ずしもコンサルタントを利用する必要はありません。
ISMS 認証の有効期間は 3 年間で、 3 年ごとに更新審査が必要です。年次の維持審査には、目安として初回の取得審査の 1 / 3 程度がかかります。更新審査にかかる費用の目安は、初回の取得審査の 2 / 3 程度です。
ISMS 認証は信頼やブランディングの向上につながる
ISMS 認証は、国際的な情報セキュリティマネジメントシステムの認証制度です。 ISMS 認証の取得により、企業の情報セキュリティマネジメントに対する取り組みを示せます。
認証を取得すると、企業の信頼性やブランド価値の向上につながる可能性があります。新規顧客の獲得や既存顧客との関係強化だけではなく、認証取得のプロセスを通じて、自社のセキュリティ体制を強化する機会も得られるでしょう。
ただし、 ISMS 認証の取得には相応の費用が必要です。自社の状況や業界の動向などを考慮し、 ISMS 認証取得の必要性を慎重に検討しましょう。