市民開発者4,700名の「攻め」を支えるガバナンス基盤~花王がAvePoint EnPowerで実現した、Power Platform運用の自動化と健全化~

花王株式会社 様

執行理事 デジタル戦略部門 情報システムセンター センター長
小久保 克也 様
対象のサービス
Power Platform
Microsoft 365
企業規模
10,001名~
対象の業界
生活用品
抱えている課題
Microsoft 365 の運用を自動化したい
製品・サービス
EnPower
Cloud Governance
  • シチズンディベロッパー数が4,700名に達し、現場主導のDXが全社レベルで進展
  • 急増するアプリの「可視化」「リリース管理」「所有者不在」「未使用アプリ放置」という大課題を解決するため、EnPower を採用
  • AvePoint Cloud Governance x AvePoint EnPowerにより、Power Platform のガバナンス基盤を構築し、導入1年で約3,900件の不要資産を自動削除し、健全な運用を実現

公開日:2026年3月19日

開発者は5年で20倍以上に。全社DXとともに急拡大した市民開発

花王は市民開発のためのツールとして、Microsoft Power Platform、具体的にはPower Apps や Power Automate を活用し、現場主導の業務改善を推進してきました。2021年には160名だった「シチズンディベロッパー(市民開発者)」は、2022年に500名、2023年に900名、2024年に1,500名、そして2025年には4,700名と5年で20倍以上に急増しています。利用ユーザーの部門も、工場・生産系、研究系、販売系など多岐にわたり、現場DXが全社に広く浸透しています。これらの取り組みの背景について、執行理事 デジタル戦略部門 情報システムセンター センター長 小久保 克也 氏は以下のように語ります。

「花王では、中期経営計画の中で『グローバル・シャープトップ』戦略を掲げています。従来の“量”や“数”ではなく、“質”や顧客との“絆”を重視する構造改革を進めています。デジタル活用はこれらの改革を支える“手段”であり、目的ではありません。目的にフォーカスするためにも、現場起点で改善を行う市民開発を企業文化として根付かせることは重要なテーマでした。すでに Microsoft 365 を全社で利用していたため、同一基盤で柔軟に自動化・アプリ開発が行える Power Platformを市民開発に活用するのは自然な選択肢でした」

市民開発の急拡大を支えたのは、デジタル戦略部門(当時はDX戦略部門と情報システム部門)とユーザー部門で構成された「シチズンディベロッパー支援体制」です。この全社的なサポートの仕組みが、現場DXの推進力となりました。研究開発部門 研究戦略・企画部 データイノベーション推進部 部長 山崎 大輔氏は次のように振り返ります。

「社員が自分の手で業務を改善できる環境が整い、一気に変革が加速しました。製造現場における紙点検記録のデジタル化、製造現場パトロール管理アプリ開発など、現場DXの事例が次々と生まれてきました」

一方で、利用が拡大するにつれ、新たなセキュリティ上の懸念や運用課題も明確になっていきました。そこで同社が着目したのが、社内の SharePoint や Teams の運用で以前から利用していた AvePoint 製品でした。

アプリ増加の裏で浮き彫りになった運用リスク

シチズンディベロッパー支援チームとして活動していた山崎氏は、当時の課題を次のように説明します。

「まず、市民開発者がどの部門にどの程度在籍しているのか、全体像がまったく把握できなかったのです。どの部門を重点的にフォローすべきかを把握するためにも、人数や配置を可視化する仕組みが必要だと考えていました。加えて、開発されたアプリの利用実態も分からず、個々のアプリの成果を評価することが難しかったので、アプリの利用状況をしっかり見える化したいと強く感じていました」

Microsoft が無償提供する Power Platform CoE(Center of Excellence)スターターキットの活用も検討しましたが、目的・対象ユーザー・稼働状況などのメタデータ管理が要件に合致せず、部門ごとの実態を把握しづらかったため採用には至りませんでした。デジタル戦略部門 情報システムセンター 中谷 圭佑 氏は、システム部門の視点でも、活用が広がるほど運用上の課題が複合的に深刻化し、管理体制の強化が急務になっていたと指摘します。

「アプリ所有者の退職等により管理者が不在となるケースが発生していました。所有者不在のアプリは誰もメンテナンスできず、必要な変更作業が行えません。本来、”市民”開発である以上、資産の管理も市民(利用部門)が担うべきです。加速度的に増えていく市民開発の資産の全てをシステム部門で面倒を見るのは物理的に不可能だからです。しかし、当時は強い権限を持つシステム部門しか所有者付け替え作業ができなかったことから、手作業での救済が日常化し、運用上の大きな負担となっていました。

また、アプリ公開時のチェックポイントが存在しないことも大きなリスクでした。上長が把握していないアプリが公開されたり、マニュアル・仕様書がないままリリースされたりといった事例も散見され、担当者の異動や退職時に引継ぎできず、将来的に運用が立ち行かなくなるアプリが生まれる懸念がありました。

さらに、開発途中で忘れられているものや、開発したものの利用されなくなったアプリやフローが放置され増え続ける問題もありました。これにより、リソースの浪費や情報漏洩リスクが高まるだけでなく、実際に業務に貢献している必要なアプリやフローの数を把握・評価できない状況に陥っていました」

開発資産の可視化、品質担保、セルフリカバリーが進み、現場と情報システムセンターの負荷が大幅軽減

これらの課題を解消するため、花王は既に利用していたAvePoint Cloud Governanceに加え、Power Platform の管理ソリューション「AvePoint EnPower」の導入を決定しました。デジタル戦略部門 情報システムセンター 芝 真紗美 氏は経緯を以下のように説明します。

「2023年に導入を決定し、2024年2〜5月にかけて要件定義、構築を進めました。構築完了時点で一部機能が不足していたため、AvePointへ機能強化リクエストを行い、迅速にご対応いただけた事で、2024年11月に国内パイロット展開、2025年2月に国内全社展開に至りました。」

AvePoint EnPowerの展開においては、システム部門だけでなくシチズンディベロッパー支援チームとも連携し、5名体制で推進しました。社内説明会の実施や事前周知を行う事でユーザーの抵抗や混乱を招く事なくスムーズに展開を行う事が出来ました。

導入後の効果について、中谷氏は以下のように語ります。

「これまで可視化できなかったアプリやフローの資産を一元的に把握し、利用用途、対象ユーザー、本番稼働状況、関連資料保管場所といったメタデータも含めて管理できるようになりました。また、アプリのリリースに関しては、開発・テスト段階のアプリには共有制限を適用し、開発者自身がAvePoint Cloud Governanceを通じてリリース申請を行い、上長が承認することで初めて共有制限が解除されるというプロセスを構築しました。これにより、テスト不足やマニュアル・仕様書不備のまま公開されるといったリスクが大きく減少し、適切な品質担保が可能になりました。

アプリの運用開始時の承認プロセスを Cloud Governance とEnPowerを組み合わせて実現している

さらに、所有者が退職・異動したことで管理不能になっていたアプリについても、AvePoint EnPowerによるメイン/サブ連絡先の設定が解決策となりました。所有者不在を検知すると、自動的にAvePoint Cloud Governanceが連絡先へ通知し、連絡先自身が新たな所有者を設定できる仕組みが整ったことで、システム部門が都度手作業で救済する必要がなくなり、現場主体でのセルフリカバリーが可能になりました。

アプリやフローのライフサイクル管理については、定期的(年次)にAvePoint Cloud Governanceの自動通知によって削除や棚卸を促す運用へと移行しました。これにより、不要なアプリやフローが放置され増え続ける状況を防ぎ、TeamsやSharePointで既に確立していた棚卸ルールと同様の運用がPower Platformでも実現できるようになりました」

2025年2月の国内全社展開から現在までの約1年間で、AvePoint Cloud GovernanceとEnPowerの自動処理により削除された不要なアプリは約1,350件、フローは約2,550件にのぼります。

「これだけの数の不要アプリやフローが、システム管理者の作業なしに自動で削除されています。実際、たった1年でこれだけの不良資産が生まれており、AvePoint EnPowerを導入せずに何も手を打っていなかったら、これらがどんどん増え続けていたはずです。こうした具体的な数字からも、自動化による導入効果を実感しています」(中谷氏)

また、ユーザー部門の立場から、山崎氏は「この仕組みを入れたことで、『自分が作ったものに責任を持つ』という意識変化が生まれたと感じています」と付け加えます。

このように、AvePoint Cloud GovernanceとAvePoint EnPowerを組み合わせた運用基盤の整備は、市民開発の「攻めの推進力」を損なうことなく、必要なガバナンスを自然な形で組織に根づかせる仕組みとして機能し始めています。

今後の展望 ― AI時代のガバナンス強化へ

花王は「現場起点」のデジタル改革を推進し、市民開発を企業文化として根付かせることで、組織全体の改善力を高めてきました。一方で、急増する開発資産に潜むリスクも明らかになり、AvePoint EnPowerによって現場の創造性を損なわずにガバナンスを強化することに成功しています。

今後の AvePoint への期待について、芝氏は次のように語ります。

「Teams、SharePointの運用・統制管理としてAvePoint Cloud Governanceから始まり、今回Power Platformの運用・統制管理としてAvePoint EnPowerを追加導入しました。
弊社ではM365のアプリを幅広く利用していますので、今後もAvePointソリューションの活用範囲を広げていきたいと考えています。
たとえばCopilot Studioは飛躍的に利用者数が増えているので、まずは利用分析を進めたいですね」

花王では、Microsoft 365をはじめとするデジタル基盤の利活用をさらに高度化し、AIやデータ活用といった新たな領域にもガバナンスを広げていく方針です。小久保氏は、これからの展望について次のように述べています。

「今後はAIの活用が本格化し、エージェントを含む新たなデジタル資産が急速に増えていく時代になります。その中でも、これまでと同様に「攻め」を止めずに「健全性」を保つ仕組みが不可欠です。AvePoint EnPowerを活用しながら、ユーザーに負荷をかけることなく、安心して挑戦できる環境を整えていきたいと考えています。」

花王の次なる DX ステージはすでに始まっており、AI を含めた次世代の運用・ガバナンス体制の構築に向けて、今後も進化が続いていきます。