
顧客関係管理 ( CRM ) は、あらゆるビジネスにとって必要不可欠です。ビジネスを成長させ、継続させていくためには、リードを獲得し、既存顧客を育て、新たな案件を見出すという顧客サービスのサイクル全体が非常に重要になります。
増え続ける顧客データに対応するため、かつては様々なソリューションが活用されていました。しかし今や CRM システムで、顧客との関係はより包括的に管理できるようになっています。
本記事では、代表的な CRM システムである Dynamics 365 と Salesforce について、製品の対象範囲、ソリューション バンドル、連携、カスタマイズ性、コストの5つの観点で比較しながら解説します。製品選びのためにご一読ください。
注目 CRM システム、Dynamics 365 と Salesforce の比較
CRM システムは日々進化を続けています。現在、最も人気のある CRM システムとして挙げられるのが Dynamics 365 と Salesforce です。いずれも通常の CRM システムのコンポーネントにとどまらない機能を備えており、顧客とより良い関係を築くというニーズの高まりに応えるソリューションであり続けています。

Salesforce も Dynamics 365 も、リードの効率管理やマーケティング キャンペーンの積極的な作成、顧客ニーズの把握といった基本機能はもちろん、ユーザー向けの連携も可能となっています。
この記事では、Salesforce および Dynamics 365 を以下のポイントで比較・紹介します。
- 製品の対象範囲
- ソリューションバンドル
- 連携
- カスタマイズ性
- コスト
製品の対象範囲
「顧客とのつながり」と聞いて私たちがすぐに思い浮かべるのは、営業やマーケティング、サポートといった分野ではないでしょうか。
しかし実際のところ、顧客データは組織全体に関与してきます。営業部門やマーケティング部門によるリード獲得およびキャンペーン、サポート部門による既存顧客とのコミュニケーション、財務部門による予算の検討、さらには人事部門によるプロジェクトで必要な新規役職の把握など、顧客データは組織のさまざまな部門で扱われています。

こういった各部門の異なるニーズに対応することで、顧客を満足させるための新たな基準が確立していきます。
Dynamics 365 も Salesforce も、以下のようにさまざまな分野をカバーしています。
Dynamics 365 | Salesforce |
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Dynamics 365 は CRM + ERP* プラットフォームへと進化したため、提供されるソリューションは様々なビジネスエリアに拡大しています: ・セールス ・マーケティング ・サービス ・サプライチェーン ・HR ・ファイナンス ・プロジェクトマネジメント ・カスタマーデータプラットフォーム | Salesforce は主に 4 つの CRM クラウドサービスを提供しています: ・Sales Cloud ・Marketing Cloud ・Service Cloud ・Commerce Cloud |
* ERP (企業資源計画) を活用することで、バックオフィスと現場の部門につながりを生み出し、より多くの部門に対し、より透明性の高い形で、顧客データを更新できるようになります。
ソリューションバンドル
ソリューションバンドル(業種や目的別に必要な機能やサービスをまとめたパッケージ)が用意されていれば、企業は適切なプランやライセンスを選択しやすくなります。また、バンドルは特定のビジネスや業界のニーズを考慮してソリューションがまとめられているため、特定の機能を利用しやすく、さらには将来的なワークフローのイノベーションも導入しやすくなります。
それぞれの製品では主に次のような業種でのソリューションバンドルを提供しています。
Dynamics 365 | Salesforce |
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・製造 ・金融サービス ・医療 ・小売 | ・金融サービス ・製造 ・通信 ・小売 ・消費財 ・医療とライフサイエンス ・メディア・エンタメ ・輸送とホスピタリティ ・非営利団体 |
次のような、より一般的なバンドルも存在します。
Dynamics 365 | Salesforce |
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Business Central: セールス、サービス、ファイナンス、業務の各チームを横断的に連携させる包括的なビジネスソリューションです | Customer 360 (with Slack): セールス、サービス、マーケティング、コマース、 IT 、アナリティクスを統合し、顧客中心となるより多くのチームとの連携を可能にします |
こうしたパッケージの利用により、初期構築の時間とコストを大幅に削減でき、迅速な導入と立ち上げが可能になるメリットがあります。
連携
万能なソリューションは存在しません。そのため、購入したソリューションでは利用できない機能が必要になる可能性があります。
この課題を解決するのが連携です。他のユーザーとデータを拡張・共有することで、スムーズに作業できるようになります。また、連携により、データはビジネスを成長させる資産へと変化します。 Dynamics 365 および Salesforce による連携の概要は以下のとおりです。
Dynamics 365
Dynamics 365 は、Microsoft のプラットフォーム( Power Platform 、 Dataverse 、 Common Data Model ) 上に展開されます。そのため、 Microsoft の他のさまざまなツールとシームレスに連携でき、 Dynamics 365 自体では利用できない追加機能も活用できます。
例えば、Microsoft 365 の以下のようなサービスとの連携が可能です。
- Teams
- Exchange
- Outlook
- OneDrive
- SharePoint
- OneNote
- ゲーミフィケーション
- ナレッジ マネージメント
これらと連携させることで、チャットや通話で同僚とコミュニケーションを取りながら、同時に共同作業や共同執筆ができるようになります。
Dynamics 365 では、Microsoft 365 の Excel、PowerPoint、Power BI などの他のアプリケーションからデータをインポートしたり、他のアプリケーションへデータをエクスポートしたりすることも可能です。自動化など、ワークフローも改善できます。
また、Dynamics 365 Sales のライセンスでは、LinkedIn Connections も利用できます。
さらに、 Microsoft 365 に対応したサードパーティのあらゆるツールやソリューションを使用することも可能です。例えばデータのバックアップ ソリューションが必要な場合は、AvePoint Cloud Backup を連携させることができます。
★Microsoft 365, SalesforceⓇ, Dynamics 365, Google workspace 対応バックアップソリューション マルチ クラウド バックアップ『AvePoint Cloud Backup』についてはこちらをご覧ください。

Salesforce
Salesforce は独立した CRM ソリューションであるため、サードパーティのパートナーとの連携が大半となっていますが、ネイティブな連携も存在します。
Salesforce では以下のような連携が可能です。
- Mulesoft AnyPoint Platform :アプリの作成時にローコード ビルダーを活用しやすくなります。
- Tableau : Salesforce の各主要クラウドと連携し、より包括的な分析が可能になります。
- Net Zero Cloud :カーボン フットプリントを追跡し、関連する分析を運営モデルに組み込むことができます。
- Experience Cloud :アプリ、 Web サイト、ポータル構築のためのデジタル エクスペリエンスプラットフォーム( DXP )で、ビジネスのブランディングを高めます。
- Einstein AI :顧客との関係を改善するよりスマートなビジネス上の決定について、積極的な予測を支援します。
- Cloud Backup for Salesforce :簡単に復元可能なバックアップ データを提供し、データの損失をはじめとするクラウドのリスクからデータを保護します。
Salesforce のアプリ ストアでは、Salesforce の連携の一覧について、より包括的な形で確認できます。

カスタマイズ性
Salesforce と Dynamics 365 の大きな違いのひとつは、カスタマイズ性に対する考え方です。
Dynamics 365 は Microsoft 製品との親和性が高く、ローコードツールや Power Platform を活用することで、業務に即した柔軟なカスタマイズができます。
一方、Salesforce は標準機能やベストプラクティスに基づいた運用を重視しており、スムーズな導入と安定した運用が可能です。カスタマイズも可能ですが、用意された機能やプロセスをそのまま活用したいユーザーに特に適しています。
コスト
Dynamics 365 は機能ごとにモジュールが分かれており、利用目的に応じて柔軟に構成できるため、 Salesforce と単純にコストを比較することは難しい場合があります。ただし、代表的な利用シーンを想定した場合には、以下のようなプランが比較対象として挙げられます。
想定ユーザー / 利用シーン | Salesforce プラン: 月額(税抜) | Dynamics 365 Sales プラン: 月額(税抜) |
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試験導入 / 小規模チーム | Starter: 3,000円 | 無料試用版: 0円 ※試験導入のみ可 |
中小企業 / 部門単位導入 | Pro Suite: 12,000円 | Sales Professional 9,745円 |
本格導入 / 中〜大企業 | Enterprise: 19,800円 | Sales Enterprise: 15,742円 |
大規模導入 / 高度な分析と自動化 | Unlimited: 39,600円 | Sales Premium 22,488円 |
AI+データ+分析の総合活用 | Einstein 1 Sales: 60,000円 | Microsoft Relationship Sales 変動制 |
コスト面では、 Dynamics 365 の方が総じて低価格です。ただし、 Salesforce には独自の強みもあります。目的によっては、 Dynamics 365 側で別モジュールを追加することにより、コストが多くかかる場合もあります。
Dynamics 365 と Salesforce のどちらが最適か
これまで見てきたとおり、 Dynamics 365 と Salesforce はどちらも優れた CRM ソリューションですが、それぞれに強みがあります。
Dynamics 365 は、 Microsoft 365 や Power Platform との親和性が高く、ローコードでの柔軟なカスタマイズや、 ERP を含む広範な業務領域をカバーしている点が特徴です。コストも比較的抑えやすく、段階的な導入も可能なため、 「自社の業務にフィットしたシステムを柔軟に構築したい企業」や「部門間でのデータ連携や業務の一元化を重視する企業」に適しています。
一方 Salesforce は、 CRM 分野での長年の実績と豊富なベストプラクティスが強みで、導入のしやすさや、安定した運用を求める場合に最適です。「短期間でスムーズに CRM を導入したい企業」や「営業・マーケティングを中心に顧客接点を強化したい企業」には Salesforce が適しているといえるでしょう。
Dynamics 365 と Salesforce の特長を理解して最適な CRM を導入しよう
Dynamics 365 と Salesforce は、いずれも高機能な CRM ソリューションとして多くの企業に導入されていますが、設計思想や連携性、カスタマイズ性、価格体系などに違いがあります。
Dynamics 365 は、 Microsoft 製品との高い親和性と柔軟なモジュール構成により、業務に合わせた拡張や自動化がしやすく、全社的な連携にも適しています。
Salesforce は、業界別の豊富なテンプレートと直感的な操作性に加え、導入のしやすさや高いマーケティング機能で多くの実績を誇ります。
両製品ともに、顧客との関係を強化し、業務効率を高めるための優れたツールです。何を重視するかによって、最適な選択をしていきましょう。